愛したのは、母と同じように身勝手で束縛の強い人！（後編）

最後に残ったのは、母によく似た性格の男性。

前回の続きです。
「愛したのは、母と同じように身勝手で束縛の強い人！（前編）」：
https://www.ibjapan.com/area/tokyo/73022/blog/45475/

仮名・魔子さんには、二十歳過ぎまで母親との共依存がありました。
自立しようと突き放してはみたものの、癒着の心理パターンが壁になっていました。
その結果、三十代半ばまで男性との交際が長続きせず、壁にぶち当たっていた感じです。
赤ちゃん願望も手伝って、結婚への焦りもありました。

セラピーを通して、徐々に母親の後遺症から抜け出して、関係を温める事のできた男性が数人いました。
運命の彼はその中の一人でした。
彼の方からぐいぐい迫ってくる感じでした。
空気が読めず、魔子さんの周りからの評価がいちばん低かった男性です。
それでも惹かれる一方で、警戒心もありました。
よくよく話を聴くと、彼の性格は母親とよく似たタイプだったのです。

母から逃げたい彼女／母の姿を追い求める彼。

ぐいぐい来られるとつい応えてしまう自分がいます。
後のふたりは紳士的で、結婚相手としては安心できるのですが、いつか退屈になって自分の気持ちが離れてしまう気がしました。

この頃になると、彼女は悟っていました。
20代以降あんなに毛嫌いし拒んだ母親を、ある時期までは本当に好きだったことを。
「母親がわかってくれなかった」と思いたい気持ちは、まだ愛している証拠なのかも。
母の方が何でもやり放題で、子供として甘えさせてもらった記憶がない。
人と周りの顔色を伺い、ホンネで生きるのが苦手な自分には羨ましい存在でもありました。
好んで母のお世話をし「母のイエスマン」を演じていた自分もいたのです。

一方、彼の方は幼い頃に実母を亡くし、継母に育てられた人でした。
そのため早くに家を出て、自活し、起業した叩き上げでした。
どこか荒々しい野性的な魅力が溢れています。
彼女の中に母親の姿を映し出しているのを魔子さんは気付いていました。

女性が手綱を握ると、男女関係は劇的に変わる！

追うと逃げ、逃げると追ってくるのは、男女の愛憎劇に必須の真理のようです。
彼は独占欲が強く、嫉妬深さを隠そうともしない性格でした。
魔子さんは徐々に息苦しくなって逃げ出そうとします。
彼はあの手この手で魔子さんを捕まえようと画策してきます。
彼は他人に対するリスペクトに欠け、周りの反応を気にする性格の魔子さんが、デリカシーが無さすぎて引いてしまう事が一度ならずありました。

大ゲンカをして、「彼と一緒になるくらいなら、一生独りがいい」そう言い切ったかと思うと、次のセッションでは「彼がいないと死んだようになる」そう漏らす彼女がいました。
振幅の激しさが心配になり、「この縁はあきらめて、出直そう」そう決めて、彼との間でもう会わない約束を交わさせました。

ひと月以上もの猶予期間中、彼女はこれまでのセッションの振り返りをしていました。
彼と別れる決心は変わらないこと。
母との後遺症の事は学びに変えられていること。
自分から「別れたい」と切り出せた事が自信になっていること。
今なら彼と再会しても冷静でいられる気がすること。

彼との幸せに再コミットして、涙した彼女。

それは彼も同じ気持ちだったらしく、お互いに「感謝を伝えたいから」という名目で会って、正式に別れる運びになりました。
ランチを楽しみ、彼は「君の幸せだけを願っている」と殊勝にも紳士的に振舞ってくれました。
彼女の使う駅までキャリーバッグを彼が運んでくれたそうです。
改札での別れ際、そのひらめきは突然降ってきたと言います。
「そうだ、私が、猛獣使いになればいい！」
セッションの中で「あなたがリーダーになる」そう何回も伝えてきました。
その意味を探りあぐねて、ようやく腑に落ちた瞬間でした。
男女関係のパートナシップでは、女性が主導権を握った方が幸せになれるのです。
「完全な人はいないのだから、ふたりで助け合おう！」
その気持ちを彼に伝え、人目もはばからず、ふたりはハグし合いました。

その時は壁だと思えていたものが、実はドアだったのです。
母娘の癒着の事も、牢獄の中に囚われていると思っていたのは幻想で、格子にしがみついて捕まっていたのは自分の方でした。
いつでも手を放せばよかっただけでした。
母によく似た性格の彼を今は自分を信じて、ただ歓迎し受け容れるだけでした。
善くも悪くも母親に囚われていた彼女の人生の第一章が、ようやく終わりを告げようとしていました。


（つづきは次回）#363

#362「愛したのは、母と同じように身勝手で束縛の強い人！（前編）」：
https://www.ibjapan.com/area/tokyo/73022/blog/45475/

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