【立川家系 最終話】30代実家暮らしVS30代一人暮らし
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【最終話】30代実家暮らしVS30代一人暮らし
静かな戦争を終わらせた、意外なひと言
数週間後。
私は再び、立川駅近くのあの家系ラーメン店を訪れました。
以前と同じように、店内には豚骨醤油の香りが広がり、厨房からは威勢のいい声が聞こえてきます。
食券を買い、空いている席へ座ろうとしたときでした。
「あれ?」
見覚えのある2人が、以前とほとんど同じ場所に座っていました。
30代の実家暮らし男性と、一人暮らし男性。
あの日、
「実家暮らしはお金が余っていいよな」
という一言から、静かな戦争を始めた2人です。
しかし、その日の雰囲気は前回とまったく違いました。
お互いに笑いながら、穏やかに話しています。
前回のような張りつめた空気も、言葉の裏に隠れたトゲもありません。
私は少し離れた席でラーメンを待ちながら、再び2人の会話を耳にすることになりました。
実家暮らし男性からの突然の報告
実家暮らしの男性が、少し照れくさそうに言いました。
「実は、来年結婚することになったんだ」
一人暮らしの男性は目を丸くしました。
「本当に?おめでとう!」
「ありがとう。今、彼女と新居を探してる」
前回は、
「実家だからお金が残る」
「実家暮らしだから旅行へ行ける」
と言われていた男性です。
しかし、話を聞いていると、実家で貯めてきたお金を、結婚式や新生活の準備に使う予定だと分かりました。
旅行や高価な買い物だけに使っていたわけではありません。
将来のために、毎月少しずつ貯めていたのです。
一人暮らしの男性が尋ねました。
「じゃあ、結婚したら初めて実家を出るんだ?」
すると実家暮らしの男性は、笑いながら答えました。
「そうなんだよ。正直、今から不安だよ」
「料理も洗濯も、今まで以上にやらないといけないし、家賃や光熱費も全部自分たちで管理しないといけない」
そして少し真剣な表情になり、こう続けました。
「お前が前に言っていた、一人暮らしの大変さが今になって分かってきたよ」
一人暮らし男性にも変化があった
今度は、一人暮らしの男性が少し恥ずかしそうに話し始めました。
「俺も最近、付き合い始めた人がいるんだ」
「おお、それは良かったじゃん」
「まだ結婚の話まではしてないけど、将来のことは少し考えるようになった」
すると一人暮らしの男性は、前回の会話を思い出したように苦笑いしました。
「この前、実家暮らしはずるいみたいなこと言っただろ」
「言ってたな」
「あれ、ちょっと悪かったと思ってる」
実家暮らしの男性は笑いました。
「気にしてないよ」
しかし、一人暮らしの男性は続けます。
「彼女と結婚の話をしたときに、貯金額を聞かれたんだ」
「それで?」
「正直に言ったら、思っていたより少ないって驚かれた」
一人暮らしの男性は、家賃や生活費をすべて自分で負担しながら生活してきました。
自立した生活力はあります。
しかし、その分、結婚資金として使える貯金は多くありませんでした。
一方、実家暮らしの男性は、一人暮らしの経験はありません。
しかし、将来に向けて貯金を続けていました。
そこで一人暮らしの男性は気づいたそうです。
「俺は、お前が楽をしていると思ってた」
「でも実際は、違う方法で将来の準備をしていたんだな」
どちらも「持っていないもの」を見ていた
前回、2人はお互いを比べていました。
一人暮らしの男性は、実家暮らし男性の貯金や金銭的な余裕をうらやんでいました。
実家暮らしの男性は、一人暮らし男性の自由や生活力を、少しうらやましく感じていたのかもしれません。
人は、自分がすでに持っているものよりも、持っていないものに目が向きやすいものです。
例えば、スマートフォンの充電が80%残っていても、
「あと20%しか充電できない」
と考える人もいれば、
「まだ80%も残っている」
と考える人もいます。
同じ数字でも、見る方向によって感じ方は変わります。
この2人も同じでした。
一人暮らし男性には、家事や金銭管理を自分で行ってきた経験があります。
実家暮らし男性には、将来に備えて貯めてきたお金があります。
2人とも、それぞれに大切なものを積み上げていたのです。
ただ、自分にないものばかりを見ていたため、相手の良さが見えなくなっていました。
ラーメンの注文に現れた、小さな変化
2人のラーメンが運ばれてきました。
一人暮らしの男性は、海苔を追加していました。
実家暮らしの男性は、味玉を追加していました。
すると一人暮らしの男性が言いました。
「味玉一個ちょうだい。海苔あげるから」
「いいよ」
2人は笑いながら、トッピングを交換しました。
その様子を見て、私はふと思いました。
前回の2人は、
「相手のラーメンの方が得をしている」
と比べているような状態でした。
しかし今回は違います。
自分にないものを責めるのではなく、持っているものを分け合っていました。
結婚生活も、これと似ているのかもしれません。
料理が得意な人。
掃除が得意な人。
お金を貯めるのが得意な人。
毎日の生活を管理するのが得意な人。
すべてを一人で完璧にできる人は、ほとんどいません。
だからこそ、お互いの得意なことを持ち寄り、足りない部分を補い合うことが大切です。
実家暮らしか、一人暮らしかより大切なこと
結婚相談所で多くの方とお話ししていると、
「実家暮らしの男性は避けた方がいいですか?」
「一人暮らしをしていないと、自立していないのでしょうか?」
と質問されることがあります。
しかし、住んでいる場所だけで、その人の人間性や結婚生活への向き不向きを判断することはできません。
大切なのは、現在の住所ではなく、その人がどのように生活しているかです。
実家暮らしでも、
家にお金を入れている。
家事を分担している。
親に頼りきらず、自分のことは自分でしている。
将来のために計画的に貯金している。
このような人であれば、結婚後もしっかり生活できる可能性があります。
反対に、一人暮らしでも、
家事をほとんどしない。
毎月収入を使い切ってしまう。
部屋の管理ができない。
生活費を計画的に考えていない。
という人もいるでしょう。
一人暮らしをしているだけで、必ずしも結婚生活の準備ができているとは限りません。
結婚後に問われる、本当の生活力
結婚後に大切になるのは、
「実家を出た経験があるか」
だけではありません。
収入の範囲内で生活できるか。
家事を相手任せにしないか。
困ったときに話し合えるか。
相手の負担に気づけるか。
将来に向けて一緒に計画を立てられるか。
こうした力の方が、はるかに重要です。
家賃を払っている人が偉いわけではありません。
実家で貯金をしている人が勝ちというわけでもありません。
結婚生活は、どちらが多く持っているかを競うゲームではないからです。
静かな戦争を終わらせたひと言
ラーメンを食べ終えた一人暮らしの男性が、紙ナプキンで口元を拭きながら言いました。
「結局さ、人と比べても意味なかったな」
実家暮らしの男性は笑いながら答えました。
「本当だな。結婚したら、お前に家事を教えてもらうよ」
「じゃあ俺は、貯金のやり方を教えてもらおうかな」
2人は笑いました。
あの日、立川の家系ラーメン店で始まった静かな戦争。
その勝負に勝ったのは、実家暮らしの男性でも、一人暮らしの男性でもありませんでした。
自分にないものを持つ相手を責めるのではなく、
相手の良さを認められるようになった2人。
そして、他人と比べることをやめ、自分の人生と向き合い始めた2人。
その瞬間、この戦争には本当の終止符が打たれたのです。
本当の勝者とは
実家暮らしか。
一人暮らしか。
どちらが勝ちなのか。
答えは、どちらでもありません。
本当の勝者は、
自分の環境を言い訳にせず、持っているものを生かして未来へ進める人です。
そして結婚においては、
自分に足りないものを相手に求めるだけではなく、相手の足りない部分も一緒に補える人です。
家系ラーメンは、麺だけでも、スープだけでも完成しません。
海苔、ほうれん草、チャーシュー、味玉。
違う具材が一つのどんぶりに入るからこそ、一杯のラーメンとして完成します。
結婚も同じです。
違う環境で生きてきた2人が、お互いの違いを認め、支え合う。
そこに、本当の幸せな結婚生活が生まれるのではないでしょうか。