土曜日の夜に読む物語
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土曜日の夜に読む物語
好きな人が誰かといた夜
土曜日の夜、22時17分。
スマートフォンが光った。
「今日はありがとうございました。楽しかったです」
彼からのLINEだった。
いつもなら、うれしいはずの言葉。
でも、その夜は違った。
私はそのメッセージを、しばらく開くことができなかった。
なぜなら、今日、彼が別の女性と会っていたことを知っていたから。
まだ、恋人ではない二人
彼と出会ったのは、結婚相談所のお見合いだった。
38歳の私と、41歳の彼。
初めて会った日の印象は、正直に言えば普通だった。
話し方が穏やかで、清潔感があって、よく笑う人。
特別に胸が高鳴ることもなかった。
それでも、もう一度会ってみたいと思った。
二度目のデートは、日曜日のランチ。
三度目は、水族館。
彼はいつも少し早く待ち合わせ場所に来ていた。
私が寒そうにしていると、暖かい場所を探してくれた。
話した内容を、よく覚えていてくれた。
そんな小さな優しさが、少しずつ私の日常に入り込んできた。
朝、電車に乗るとき。
仕事が終わった帰り道。
スーパーで夕飯を選んでいるとき。
ふと、彼のことを考えるようになっていた。
でも私は、まだ彼を好きだとは認めていなかった。
「いい人だと思う」
カウンセラーに聞かれても、そう答えていた。
好きかどうかなんて、まだ分からない。
そう思っていた。
土曜日は、会えないと言われた
四度目のデートを決めるとき、私は彼に聞いた。
「来週の土曜日は空いていますか?」
少し間があって、彼から返事が来た。
「土曜日は予定があって。日曜日なら大丈夫です」
「分かりました。日曜日にしましょう」
何でもない会話だった。
結婚相談所の仮交際では、複数の人と会うことが認められている。
私も知っていた。
頭では、ちゃんと理解していた。
彼がほかの女性と会っていたとしても、何も悪いことではない。
まだ恋人ではないのだから。
それなのに、土曜日の夜になると、どうしても考えてしまった。
今頃、誰といるんだろう。
どんなお店に行ったんだろう。
私といるときみたいに、笑っているのかな。
相手の女性は、どんな人なんだろう。
私より若い人だろうか。
私よりきれいな人だろうか。
そんなことを考える自分が、少し嫌だった。
彼からのLINE
22時17分。
「今日はありがとうございました。楽しかったです」
彼から届いたそのLINEは、前日の私のメッセージへの返信だった。
きっと、忙しかったのだろう。
それだけのこと。
でも私は、勝手に想像してしまった。
誰かとのデートが終わって、帰りの電車に乗っているのかもしれない。
その女性と別れたあとに、私に返信してくれたのかもしれない。
そう思ったら、胸の奥が少し苦しくなった。
彼は何も悪くない。
私に嘘をついたわけでもない。
約束を破ったわけでもない。
それでも、寂しかった。
私はスマートフォンを伏せた。
テレビをつけた。
何が流れていたのか、まったく覚えていない。
私は、いつから彼を好きになったんだろう
彼のどこが好きなのかと聞かれたら、うまく答えられない。
背が特別高いわけでもない。
会話が飛び抜けて面白いわけでもない。
条件だけを見れば、もっと良い人がいるのかもしれない。
でも。
水族館で、私がクラゲを見ていたとき。
彼は急かさず、隣で一緒に眺めてくれた。
ランチのとき、私がメニューを迷っていたら、
「ゆっくり選んでください」
と笑ってくれた。
帰り際には、いつも、
「今日はありがとうございました。気をつけて帰ってくださいね」
と言ってくれた。
思い出すのは、そんな小さなことばかりだった。
大きな出来事なんて、何もない。
それなのに、気づけば彼との時間が、私の一週間の楽しみになっていた。
そして今日、初めて思った。
彼が誰かを好きになったら、どうしよう。
もう私と会わなくなったら、どうしよう。
そのとき、ようやく分かった。
私は、彼のことが好きなんだ。
日曜日の午後
翌日、彼と会った。
いつものように、彼は待ち合わせ場所に少し早く来ていた。
「こんにちは」
いつもと同じ笑顔だった。
私も笑った。
でも、昨日の夜のことが頭から離れなかった。
カフェでコーヒーを飲みながら、私は何度も言いかけた。
昨日は、誰と会っていたんですか。
ほかにも、気になる人がいるんですか。
私のことは、どう思っていますか。
でも、聞けなかった。
聞くのが怖かった。
彼の答えによっては、今の関係が終わってしまう気がしたから。
そんな私に、彼が言った。
「今日、何だか静かですね。疲れていますか?」
「いえ、大丈夫です」
「そうですか。無理しないでくださいね」
その言葉が、いつもより優しく聞こえた。
私は思わず、彼を見た。
そして、小さな声で言った。
「また、会えますか?」
彼は少し驚いた顔をした。
それから、笑った。
「もちろんです。僕も、また会いたいです」
その言葉を聞いて、胸の奥が温かくなった。
昨日の夜、あんなに苦しかったのに。
たった一言で、こんなにうれしくなるなんて。
好きになるということ
帰りの電車で、私は窓に映る自分の顔を見た。
少し笑っていた。
彼が土曜日に誰と会っていたのか、結局分からなかった。
本当に別の女性と会っていたのかさえ、分からない。
もしかしたら、友人と食事をしていただけかもしれない。
家族と過ごしていたのかもしれない。
私は、確かめてもいないことに嫉妬していたのだ。
でも、あの夜がなければ、自分の気持ちに気づかなかったかもしれない。
彼と会えることが、当たり前になりかけていた。
また来週も会える。
またLINEが来る。
また一緒に笑える。
どこかで、そう思っていた。
でも、本当は違う。
婚活で出会った二人は、まだお互いの未来を約束していない。
次のデートが、最後になることだってある。
だからこそ、伝えられる気持ちは、少しずつでも伝えていきたい。
私はスマートフォンを取り出した。
「今日はありがとうございました」
そこまで打って、少し考えた。
そして、続きを書いた。
「一緒にいると、すごく落ち着きます。またお会いできるのを楽しみにしています」
送信ボタンを押す。
今度は、返信を待つ時間さえ、少し楽しみだった。
最後に
婚活では、相手の気持ちが分からなくて、不安になることがあります。
特に仮交際では、お互いが複数の方とお会いしている可能性があります。
頭では理解していても、気持ちが追いつかないこともあるでしょう。
でも、嫉妬したからといって、必ずしも相手を深く愛しているとは限りません。
大切なのは、相手を独占できるかどうかではなく、その人とどんな関係を築きたいかです。
もし今、交際している相手への気持ちが分からずに迷っているなら。
一つだけ、想像してみてください。
もし、この人ともう一生会えなくなったら。
その人の笑顔を、もう見ることができない。
声を聞くこともない。
何気ないLINEが届くこともない。
そう考えたとき、あなたは何を感じるでしょうか。
もう一度会いたい。
もっと話したい。
まだ、この人のことを知りたい。
そんな気持ちが浮かんだなら、焦って結論を出さなくてもいいのかもしれません。
好きという気持ちは、会っている時間よりも、会えない時間に気づくことがある。
土曜日の夜。
あなたが思い浮かべたのは、誰でしたか。
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