私だって結婚したい──交際経験0のアラフォー婚までの軌跡
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一度、誰かと生きてみたい──必要なのは“関わる勇気”だった
「私だって結婚したい」
「大人になって、自由を得たけど、幸福が見えない」──あゆみ(仮名・41歳・薬剤師)は、静かにそうつぶやいた。仕事も順調、趣味も充実。だけど、夜の台所で母が「お味噌汁冷めちゃうわよ」と声をかけてくるたび、ふと心が冷める。「このまま、母の隣で年を取っていくのかな」そんなアラフォーの自分の未来がリアルに想像できて、少し怖くなる。あゆみには隠したい秘密があった。交際経験がゼロ。それを重荷に思っていた。
婚活の難しさは、“出会いの少なさ”ではなく、“心の準備”の問題。結婚とは、「関わる勇気」を選ぶことなのだ。
“箱入り娘”でいることの限界
あゆみは一人っ子。女子校、女子大を経て、実家暮らし。ずっと“良い娘”として生きてきた。父は厳格、母は優しくも父に同調するタイプ。彼女はいつも、指示される前に空気を読んで動く。反抗期?そんなものは、起きる前に終わっていた。
けれど、彼女はただの“良い子”ではない。実は、かつて一度だけ自活を試みたことがあったのだ。転職のとき、通勤に1時間かかる職場をあえて選び、ひそかに一人暮らしを計画していた。けれど、父に強く反対され、母も止めに入った。「結婚するまでは家にいなさい」という一言で、すべてが終わった。
その夜、布団の中で泣いた。自分の言葉で反論できなかったことが悔しかった。自活を諦めたのは安全策ではなく、言葉を失った結果だった。そのとき、彼女の中で“自分の人生を誰に預けるか”という問題が、静かに始まっていた。
「反抗しなくても、自己主張はできますよ」と尋ねると、あゆみは少し考え、「その発想がなかったんです」と言った。
“ノー”を言えなかった少女の記憶
つまり、“対等な関係”という概念が、彼女の人生にはなかったのだ。職場でも家庭でも、常に“上か下か”の世界で生きてきた。だから、恋愛に発展しそうになると、自然と相手に従ってしまう。心では「違う」と思っても、口では「うん」と言ってしまう。そして反動がやってきて、親密になりそうになると拒絶してしまう、その繰り返し。まるで反射神経のように。カウンセリングの中で記憶を遡る──。
「7歳の七五三のとき、無理やり振袖を着せられたんです。嫌だったのに、言えなくて……。どうしても“なんと言えばいいのか”が分からなかったんです。黙って従うしかなくて。でも、心の奥では、悔しくてたまらなかった」
あゆみは苦笑しながら言ったが、その笑いは少し震えていた。
「自分の気持ちを表現できなかったのが、悔しかったんです」
この“振袖事件”が、あゆみの“生き方のテンプレート”になった。「親が望むなら我慢する」「相手の気持ちを優先する」──そうして、自分の“ノー”を飲み込んできた。けれど、その癖は恋愛でも繰り返される。彼女にとって“好き”とは、“自分を消すこと”に近かった。
「親との対等さ」を取り戻すレッスン
私は言った。「結婚の前に、まず親と対等な関係を築く練習をしましょう」
「親との関係が上下のままだと、次に夫がそのポジションに座ります」
あゆみは静かにうなずき、「そうなれない自分を嫌っているかも」と答えた。
そこで始めたのが、“対等さ”のイメージ練習だ。
* まず、素直に受け止める(賛成しなくてもいい)
* お互いが言いたいことを言える関係
* お互いを尊重し合える空気感を持つ
社会心理学者のアドラーは言う。「一つでも縦の関係があると、すべての人間関係が上下になる」。──まさにその通り。母に対しても職場の上司に対しても、彼女は無意識に“下”の立場を選んできたのだ。
小さな“対等”が、世界を変えた
ある日、あゆみは母と家事の分担を交渉した。「結婚に備えて練習したい」と伝えると、母は目を丸くして笑った。「あら、頼もしいじゃない」。
さらに職場でも、希望の部署への異動を提案。「部署間の交流が広がれば、組織にもプラスです」と自分の意見を添えた。結果、上司はその提案を受け入れた。──“言っても意味がない”と思っていた世界が、少し動いた。
「横の関係を意識したら、発言するのが楽しくなって。私、自己発信が苦手じゃなくて“遠慮グセ”だったんですね」
責任の範囲が広がるほど、自由は増える。自立とは、“ひとりで頑張る”ことではなく、**関わりながら、自分を保つ力**を持つことなのだ。
“一度、(親以外の)誰かと生きてみたい”
「自分の考えで生活してみたい」──あゆみは言った。その目はもう、“お父さんの許可”を待っていない。
半年前、母の病気で感じた、将来への“漠然とした不安”は、いまや“密かな希望”に変わった。
「親が泣くかもしれません。でも、私、楽しみなんです」
結婚とは、依存し合うことではなく、お互いを尊重しながら支え合う勇気を持つこと。自由の先にあるのは、“ふたりで創る自由”だ。
そして、アラフォー婚の本質は──「一度、誰かと真剣に生きてみたい」と思える自分に出会うこと。その願いこそ、人生の後半戦に訪れる最高のスタートラインなのかもしれない。
今日のステップ:
* 今夜、母に「今日は私が洗い物するね」と一言添えてみよう。小さな“交渉”の第一歩です。
* 職場では、上司に軽く意見を出してみよう。「私はこう思うんですけど、どうですか?」と添えるだけで十分。
* その瞬間、自分の心がどんなふうに動くかを観察してみて。胸がドキッとしたら、それは“関わる勇気”が芽生えたサイン。
* そして夜、自分に「今日、よくやったね」と声をかけてあげましょう。そうやって少しずつ、“ひとりで頑張る私”から、“誰かと関わりながら生きる私”へ。