48歳、母の呪縛を超えて出会った再婚未満の奇跡・前編
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「48歳、初婚です。」──写真家・絢子の婚活再起物語|前編
「48歳、初婚です。」──そう口にした後の周りの沈黙を、絢子は今も覚えている。けれどやがて思い知らされるのだが、本当の壁は年齢ではなかった。彼女の心の奥で、母との関係が癒されず、いまだ“母の声”が響いていたのだ。
絢子はプロの写真家。仕事では料理や調理器具を撮る日々を送りながら、いつか舞台の光を撮りたいと願っていた。生活のためにカメラを握り続ける毎日。その手の奥には、満たされない渇きがあった。
「そんな男はやめなさい」母の呪縛
恋多き女と見られがちな彼女は、実は情が深く、誠実だった。けれど、恋をすればいつも傷つき、別れのたびに「また母が壊すのでは」と怯えていた。母は過干渉で、支配的。誰かを好きになるたびに「そんな男はやめなさい」と中傷した。愛を監視に変える母。その影響から逃れようとしたのは、四十を過ぎてからだった。
そして48歳。結婚相談所の扉を開いた。13人目に出会ったのが、健次郎──広告代理店のチーフプロデューサー。55歳、再婚。初対面の瞬間、絢子は射抜かれるような目力を感じた。「やっと、私をまっすぐ見てくれる人が現れた」と思った。
交際から一ヶ月でスピード婚約
ふたりは一ヶ月でスピード婚約。彼は誠実で、情熱的で、行動力があった。だが同時に、激しい独占欲と嫉妬を隠せなかった。絢子の職場で彼を紹介すれば、男性スタッフと衝突。彼女が懸命に築いてきたものが、音を立てて壊れていく。やがて息が詰まり、心が疲れていった。
「愛されるって、どうしてこんなに苦しいの?」
婚約破棄を決めた夜、絢子は泣いた。愛されるたび、苦しむ。まるで、母との関係を繰り返しているように──。
未完了の親子関係が鍵に
やがて彼女は本気でカウンセリングを受け始めた。母の支配、家を出て行った父への罪悪感、そして“愛とは我慢”という思い込み。それらを少しずつほどいていった。カウンセラーは言った。
「多くのシニア婚活では、未完了の親子関係が鍵になります。許せない気持ちは、次の愛の扉を閉ざしてしまうからです。」
「母を許せたら、私はまた誰かを信じられるのだろうか」──そう思いながら過ごしていた頃、スマートフォンに一通のメールが届いた。件名は「会ってほしい」。
送信者は、健次郎だった。
「私はもう逃げない。」
カウンセラーは反対した。けれど彼女は言った。
「会わずに次へ進むのは、逃げることになる気がする」と。絢子の瞳に、決意の光が宿っていた。
「また母のような人を選ぶのかもしれない」
「先生、でも、私はもう逃げない。」
──後編へ続く。
前編のまとめ🕊
絢子の物語は、年齢や婚活の条件よりも、“心の未整理”が幸せを遠ざけていることを教えてくれる。母との確執を抱えたままでは、愛は同じ形で再演される。けれど、自分の傷に光を当てれば、出会いは新しい意味を持つ。シニア婚とは、過去を整え、もう一度「信じる力」を取り戻すことなのだ。