婚活彩々物語<男性編①>
- 婚活のコツ
- 婚活のお悩み
- 恋愛テクニック
~柏木桔平 編~③
日曜の午後。駅前のカフェ。
柏木桔平は、少しだけこなれた様子で席に座っていた。前回のカウンセリングが意外と心地よく、どこかホッとできたことを、本人はまだ素直に認めきれていなかったが、もう“逃げたい”とは思わなくなっていた。
ほどなくして、工藤沙穂が現れる。柔らかな笑顔と丁寧な所作。彼女を見ると、桔平の背筋も自然と伸びる。
■内面との対話「今日は、先日の《欲求バランスチェック》の結果を踏まえて、柏木さんがどんな価値観で生きてこられたのかを一緒に見ていきましょう。」
沙穂の言葉にうなずきながら、桔平はプリントを受け取った。
「力の欲求、高いですね。“ちゃんとしていたい”“認められたい”という思いが強い方に多く出る傾向です。」
「まあ、現場じゃ“できないやつ”って言われたら終わりですからね。」
「その“ちゃんとしていたい”という価値観は、今の婚活にも出てくると思います。“うまくやらなきゃいけない”“失敗できない”って感じていませんか?」
図星だった。
「……そりゃ、ありますね。40にもなって婚活なんて、下手こいたら笑われるだけだし。」
沙穂はゆっくりと紅茶を口にして、言った。
「それでも今、ここに来ている。それが何よりの“行動の証拠”ですよ。」
■想像より厳しい現実だが、現実は甘くなかった。
入会後、数名の女性とマッチング申請をしてみたが——結果はすべて“不成立”。
「申し訳ありません、年齢やご職業の点で、条件を気にされる方が多くて…」
沙穂が言葉を選びながら伝えてくる。
「……まあ、分かってましたけどね。」
桔平は肩をすくめてみせたが、その声は少し乾いていた。
40歳・高卒・建設現場勤務。
世間一般で“堅実な職人”と捉える人もいれば、女性側からは「不安定に見える」「将来像が描けない」と敬遠されがちな属性だった。
スーツを着た営業職や公務員のプロフィールが人気なのは、見ていて明らかだった。
「結婚相談所に入れば、何とかなると思ってた。けど、現実は……甘くなかったっすね。」
■カウンセリング:折れそうな心に次の面談のカフェで、桔平はぽつりとつぶやいた。
「なーんか、自分のこと否定されてる気分になりますよね。直接じゃないけど、プロフィール見ただけで“ナシ”って。」
沙穂はうなずきながらも、静かに言葉を返す。
「それは、“柏木さんそのもの”が否定されたわけじゃありません。まだ、“届いていないだけ”なんです。」
「……届かねえもんなんですかね、こういうのって。」
「正直、簡単ではありません。だからこそ、私はお見合いだけでなく、別の形で出会いの場を提案したいと思っていました。」
「別の形?」
「実は来月、出張型の会員限定婚活イベントを企画しています。少人数で食事をしながら、リラックスして会話できる場です。プロフィールだけでは伝わらない、柏木さんの人柄を感じてもらえるチャンスです。」
「……俺みたいなのが行って浮かねえですかね?」
沙穂は、にっこりと笑った。
「むしろ、こういう場だからこそ、桔平さんの“誠実さ”や“まっすぐなところ”が伝わります。それに、もう一度言いますが——婚活は、“技術”です。何度でも練習していいんです。」
「……分かりました。じゃあ、行ってみますよ」
言ってみたものの、内心ではまだ半信半疑だった。でも、どこかで——
「ここで折れたら、ずっと変われない気がする」
そう思っていた。
その夜。風呂上がり、ビールを飲みながらスマホを開く。
イベントの案内ページには、優しそうな女性たちの笑顔が並んでいた。
「……また、断られるかもしれないな」
だけど、今の桔平は、それでも「行ってみよう」と思えるくらいには、前に進んでいた。
to be continue
【※この物語はフィクションです】