婚活彩々物語<男性編①>
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~柏木桔平 編~②
日曜の午後。
駅近くの落ち着いたカフェで、柏木桔平はひとり、予約時間を待っていた。
テーブルの上には相談所から送られてきた案内メールと、スマホ。
それを見つめながらも、落ち着かない様子でコーヒーをすすっている。
普段は作業着か現場服。
こうしてカフェで人と会うことなど、ほとんどなかった。
——やっぱ、やめときゃよかったかもな。
そんな思いが浮かんだ瞬間、控えめな声がした。
「柏木桔平さん、ですよね?」
顔を上げると、淡いブルーのシャツにベージュのジャケットを羽織った女性が立っていた。
きりっと整った顔立ちに、柔らかい笑み。
落ち着いた雰囲気が印象的だ。
「縁結び相談の工藤沙穂と申します。今日はお時間いただき、ありがとうございます。」
軽く会釈し、桔平の向かいに腰かけた沙穂。
メモ帳と筆記用具を静かに取り出すその所作に、なんとなくプロフェッショナルな印象を受けた。
「ではさっそくなんですが…柏木さんが婚活を始めようと思った、きっかけをお聞きしてもいいですか?」
初対面でいきなり核心に迫る問いに、桔平は一瞬黙り込んだ。
けれど、沙穂の視線には押しつけがましさがない。
不思議と話せそうな気がした。
「……なんとなく、ですかね。最近、職場の若いやつが家庭の話してて、それがちょっと…いいなって思ったんです。俺はこれまで、別に結婚なんかしなくてもって思ってきたんですけど。」
「“いいな”と思えた、そこが大切なんです。その気持ちを無視しなかった柏木さんは、すでに一歩踏み出してますよ。」
「はあ…そういうもんですかね。」
「はい。それに、“結婚しなくてもいい”って気持ちも、どこかでご自分を守ってきた思いかもしれません。」
図星だった。
現場ではからかわれたり、飲み会で「独身貴族だな」なんて冷やかされるたび、内心は嫌だった。
でも、それを認めたら負けな気がして、無理やり「俺はひとりで十分だから」と言い続けてきた。
沙穂は一枚のプリントをテーブルに置いた。
《欲求バランスチェック》
「これは“選択理論心理学”という考え方をもとにしたワークです。柏木さんがどんな価値観を持って、何を満たしたくて生きてきたのかを一緒に見ていきましょう。」
「心理学とか、ちょっと…苦手かもです。」
「ご安心ください。テストじゃありませんから。」
沙穂の笑い声に、桔平も思わず吹き出した。
「これまで、現場一筋でやってこられた柏木さんの“正しさ”や“誇り”も、ちゃんと大事にしながら進めていきたいと思っています。」
“ちゃんと大事に”——その言葉が、どこか胸に響いた。
カウンセリングを終えて
店を出ると、冬の光が柔らかく差していた。
桔平は、知らず知らずのうちに深呼吸をしていた。
「変な感じだな。人に、こんな風に話聞かれるなんて。」
でも、悪くなかった。
自分の気持ちを整理してくれる誰かがいるって、案外、ありがたいものだ。
次回もカフェで、と約束して別れた沙穂の背中を見送りながら、桔平はそっとつぶやいた。
「……ちょっとだけ、続けてみるか。」
to be continue
【※この物語はフィクションです】