婚活彩々物語<男性編①>
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~柏木桔平 編~①
冷たい風が吹き抜ける12月の現場。
高所での作業を終えた柏木桔平(かしわぎ・きっぺい)は、ヘルメットを脱ぎ、ひと息ついた。
白く曇った息を見つめながら、彼はいつものように弁当を広げる。
桔平、40歳。
高卒で父親の建設会社に入社して以来、職人として20年以上現場で汗を流してきた。
厳しさと上下関係がすべての世界。
腕っぷしが物を言い、仲間との絆は“武勇伝”を語ることで築かれる。
恋愛や結婚の話が出れば、いつも「俺はそういうの興味ねぇから」と笑ってごまかしてきた。
だが、最近になって気づいた小さな変化がある。
同じ現場で働く後輩・斉藤が、休憩中にスマホで子どもの動画を見せてきたのだ。
動画の中で笑っている小さな男の子。
画面越しの笑い声が、なぜか桔平の胸をちくりと刺した。
「いいな……」
ふと、そんな言葉が口をついて出そうになるのを、桔平は慌てて飲み込んだ。
家に帰っても誰もいない。
冷蔵庫にはビールと前日の残り物。
風呂に入って、テレビをつけて、寝るだけの毎日。
別にそれが嫌だったわけじゃない。
でも——何かが、変わってきていた。
翌日、会社の事務所に戻ると、事務員からこんな案内を手渡された。
「来週の外部セミナー、柏木さんも参加してくださいね。今度は“自己啓発とパートナーシップ”がテーマらしいですよ」
いつものように渋い顔をして受け取った桔平だったが、内心では少しだけ「ちょっと気になる」と思ってしまっていた。
セミナー当日パイプ椅子に座りながら、落ち着かない気分の桔平。
隣の若手は居眠りしている。
講師の女性が穏やかな声で語りかける。
「人生の後半戦、自分の本当の望みに向き合うとき、必要なのは“誰かの目”ではなく“自分の本音”です」
“自分の本音”——
どこかで聞いたような言葉。
でも、職人の世界で生きてきた桔平には、そんなもの考える余裕なんてなかった。
いや、考えようともしなかった。
講演の終わりに、相談所のパンフレットが配られた。
《選択理論心理学を用いた 自己理解 × 婚活サポート》
という見出しが目を引く。
「……自己理解? 婚活サポート?」
軽く鼻で笑いながらも、桔平はそのパンフレットをなぜか捨てられずにいた。
帰り道バスの中、パンフレットを折りたたみながら桔平はぼそっとつぶやいた。
「結婚なんてしなくても……って、俺、いつまでそう言い続けるんだろうな」
自分でも驚くような、その問い。
今までだったら考えもしなかった言葉が、胸の奥からわき上がってくる。
気がつくと、スマホでその相談所のホームページを開いていた。
「あなたの本音を見つける場所。
選択理論心理学を用いた、寄り添う婚活サポート」
無意識に、指が画面をスクロールしていく。
そして、ページの一番下——
《無料カウンセリング 予約フォーム》
そのボタンに、桔平の親指が、ゆっくりと、乗った。
to be continue
【※この物語はフィクションです】