婚活彩々物語<女性編①>
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- 婚活のお悩み
- 結婚準備
~橘 奈緒 編~④
「この人と、もう少し会ってみたいと思ったんです」
そう美園に伝えてから、奈緒は毎週末、和也と会うようになった。
水族館、カフェ、美術館。
どれも派手さはないけれど、どのデートも不思議と心が穏やかだった。
「今日も、楽しかったですね」
帰り道にそう言う和也の笑顔が、少しずつ奈緒の中に残るようになっていた。
——けれど、奈緒の心にはまだ“理性”が根強く残っていた。
ある日、職場の同僚たちとランチをしていたときのこと。
「最近どう?婚活の調子」と聞かれ、なんとなく「まあまあかな」と笑ってごまかすと、別の同僚が話し出した。
「うちの妹、外資系の彼氏できたらしいよ。年収1000万で、タワマン住みなんだって〜!」
「え〜それは勝ち組すぎでしょ!」
「さすがにそこまでじゃなくても、せめてそれなりに格好良くて稼ぎもあって……だよね〜」
笑いながら飛び交う「理想の男性像」。
かつては自分も、こんな会話の中心にいたはずなのに——今はどこか違和感があった。
帰宅後、奈緒はスマホを手に、和也から届いていた「今日はありがとう。また会えるの楽しみにしています」のメッセージを開いた。
画面越しの言葉は温かいのに、心が少しだけ揺れる。
(私は、和也さんと“釣り合っている”んだろうか?)
(それとも、“妥協”しようとしているだけ?)
次のデートの帰り道。
奈緒は思い切って和也に聞いてみた。
「……私って、あなたにとってどう見えてますか?」
和也は少し驚いたように目を見開いたあと、ゆっくりと言葉を選んだ。
「すごくしっかりしてて、綺麗で、でも……頑張りすぎてる人なのかなって思いました」
奈緒は黙っていた。
「たぶん、僕よりずっと上の世界で生きてる人だなって。でも……だからこそ、惹かれたのかもしれません」
静かなトーンだったが、そこには嘘のない気持ちがあった。
奈緒の目に、ふと涙がにじむ。
誰かに“弱さ”を見せてもいいと思えたのは、いつ以来だろう。
その夜、奈緒は美園にメッセージを送った。
「たぶん私は、誰かに選ばれようとするあまり、ずっと強がって生きてきた気がします」
「でも、今は“選ばれる私”じゃなくて、“一緒にいたい人”を自分で選んでみたいです」
返信はすぐに届いた。
「それが、奈緒さん自身の“選択”ですね」
画面の文字を見ながら、奈緒は深く息を吸った。
彼と過ごす時間が、「不安」から「希望」に変わっていくその瞬間を、彼女自身が信じてみようと思った夜だった。
to be continue
【※この物語はフィクションです】