婚活彩々物語<女性編①>
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~橘 奈緒 編~③
斉藤さんとの仮交際は、3回目のデートを最後に、奈緒のほうから終了を申し出た。
「一緒にいて楽しかったです。でも……自分を大きく見せ続けている気がして、正直、疲れてしまいました」そう美園に話す奈緒の顔は、少しだけ晴れやかだった。
「それは、奈緒さんが“本音”で向き合いはじめた証拠ですね」
美園はそう微笑み、新たに紹介したのが、和也(32歳)という男性だった。
中小企業の経理担当で、年収も条件も正直“奈緒の理想”からは遠い。
初対面の印象も、どこか地味で、話し方も穏やかというより控えめ。
だが、その中に一つだけ、奈緒の心に引っかかるものがあった——“安心感”。
正直、ピンとこなかった。
心が跳ねるような感覚はなかったけれど、「悪くないかも」と思わせる何かがあった。
「なんだろう、この空気。緊張しないっていうか……」
帰り道、美園からの「どうされますか?」というメッセージに、少しだけ考えてから「仮交際を希望します」と返した。
「とりあえず、もう一度会ってみよう。それだけでもいいはず」
自分のなかの“判断基準”が、少しずつ変わってきているのを奈緒は感じていた。
和也とのカフェでの初デートは、驚くほど穏やかだった。
無理に話題をつくらなくても沈黙が気まずくなく、自然に笑っている自分にふと気づく。
「こんなふうに笑ってるの、久しぶりかも」
だがその夜、和也から届いたメッセージには、意外な言葉が書かれていた。
橘さんはすごく素敵な方で、でも僕なんかが釣り合うのかなって……。
一瞬、プライドがチクリと傷ついた。
「なんかって……何よ」
けれどすぐに、奈緒の心は別の感情で満たされた。——彼は本気で向き合ってくれている。
ただ、同時に葛藤もあった。
彼の年収、服装のセンス、少し癖のある笑い方。
職場の同僚や友人に紹介したとき、どんな反応をされるのか。
「この人でいいの?」という問いが、何度も心をよぎる。
でも、「この人だからこそ安心できた」と思える瞬間があるのも事実だった。
“理想”と“実感”の狭間で揺れ動く奈緒。
翌日、奈緒は珍しく、自分から美園に連絡を入れた。
「……この人と、もう少し会ってみたいと思ったんです」
美園はただ一言だけ、やさしく言った。
「“心が動いた”ってことですね」
奈緒は静かに頷いた。
次のデートが待ち遠しく感じる自分に、少し戸惑いながらも、胸が温かくなるのを感じていた。
to be continue
【※この物語はフィクションです】