徒然妻日記 第4話 「ラリホー」
- カウンセラーの日常
妻は現在妊娠中である。仕事は数か月前に辞めており、今は大体家でゆっくりして過ごしている。
散歩や買い物などでたまに外出する時も、僕と一緒に外出することがほとんどなので、基本的には一人でどこかに行くことは無い生活を送っている。だが、ゆっくりした生活でうらやましいというような発言をしてしまうと、
「じゃあ夫ちゃんがおなかで子供育てればいいじゃんっ!!私はいつでも変わってあげるよっ!!」という回答が返ってくる。
そのとおり。僕にはその、我が家でもっとも大事な「おなかで子供を育てる」という仕事はできない。
僕のできない最重要の仕事をしてくれている妻。やはり妻は我が家で【神】なのである。
そんな神もたまに一人で外出することがある。歯科矯正の病院に行くときなんかがそれだ。病院は電車で40分程度かかるところにあり、ここに行くときは神が一人で外出をしている。
「妊婦なんだから堂々と優先席使っていいんだからね!」と僕は妻に話している。
妻は今まで「優先席は譲るものだ」という人生を歩んできたため、未だに優先席に座ることに抵抗があるようだ。だがずっと立っていると子宮と骨盤の距離が近くなり、出産に悪影響がでる可能性があることを知って、ようやく優先席に座ることを意識してくれるようになった。
先日、また矯正歯科に電車で行き、家に帰ってきたときに、妻から「私、魔法を使えるようになった」という発言があった。また面白いことを言っているなと思い話を聞いてみた。
妻はカバンにマタニティマークを付けている。これを付けていると周囲の人に妊婦と気が付いてもらえ、配慮していただくこともあるため助かっているのだが、、、
妻の話によると、電車の優先席に学生とみられる若い男性3人が座っていた。妻はおなかの張りを感じていたこともあり、座りたくて、優先席の前のつり革につかまって立っていた。
しばらくすると、優先席に座っていた男性が妻のマタニティマークを確認したのが分かった。するとその若い男性は急に目をつむって眠り始めたそうだ。
そして、それは一人だけの行動ではなく三人が全く同じ行動をとったというのだ。
「ゲームでこういう魔法あったよね」
「うん。ドラクエでラリホーっていう敵を眠らせる呪文があるよ。」
「私ラリホー使えるようになった。呪文唱えなくても使える。」
そういって妻は笑っていたが、その笑顔の裏にある我慢や強さを思うと、胸の奥が苦しくなった。
僕は、もっと困っている人に自然にやさしくなれる社会になってほしいと強く思った。