マリッジサポート イトカワ
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結婚相談所物語 最終章
結婚相談所物語の続編(vol.5)です。1作目~4作目をお読みで無い方は、まずはそちらををお読み頂くことをお薦めさせて頂きます。翌日から鈴木さんは約束通り実家から仕事に通って、掃除をした後にお母さんの肩を揉んでから、声に出してお父さんが作った「妻への誓い」を読んでから寝るという事を守ってくれているそうです。それから数日後、お母さんから私に電話がありました。「那須さんの言う通り、尚典は毎日トイレとお風呂の掃除をしてくれています。最初は下手だったんですけど、那須さんの言う通り厳しく出来ていないところを注意してましたら、段々と上手になって手際も良くなっています。」お母さんは嬉しそうな声で報告をしてくれています。「でも、本当に良かったんですかねー。毎日肩揉みまでさせて…」「いいんですよ。今まで散々親に迷惑をかけてきたんですから、それくらいしてもらって当然です。それでその時の事は上手く出来ていますか?」「はい、那須さんの言う通り肩揉み中に尚典には、お父さんの良かった点の思い出を話して、私が尚典にしてやれなかった事の後悔を話すようにしています」「そうですか、ありがとうございます。お母さんと尚典さんにはコミュニケーションの時間が足りなさすぎてたんだと思います。改めてそのような話をしてあげる事で、お母さんの本当の想いが伝わっていくと思いますよ」「そうなんです。なんだか、まだ、小さかった頃のとっても優しくて良い子だった頃の尚典に戻ってきたように感じているんです。7歳の頃だったかなぁ。あの人が亡くなって少ししてからの事だったと思うんですけど。尚典がね私に言ったんですよ。僕は結婚をしてもお母さんが大切だから結婚相手が出来たら、その人とお母さんと3人でお母さんの誕生日は毎年必ずお祝いしてあげるって」「へー、そんな事を言ってくれてたんですか。ふーん。でも本人は完全にその話忘れてますよね。その話も一度本人にしてください。今回の誕生日の件も改めて反省してもらいましょう」「でも、私はもういいんですよ。那須さんにもあの時お話ししたように何も反対している訳じゃないですし、お父さんが書いたっていう事になってるあの誓いも、今の尚典でしたらちゃんと守れるように思うんです」「いやいや、もう少し様子を見ましょう。親子の時間を取り戻していくせっかくの貴重な機会ですから、思いっきり親孝行させてしっかりと楽しんでください。あの誓いもね、お父さんが書いたって事になってるから、より効果的なんです。お父さんには申し訳ありませんが、尚典さんが幸せになってくれる事なら、きっとお父さんも喜んでくれると思いますので…。この話は2人だけの秘密ですからね。絶対にばらさないでくださいね」「そうですか。分かりました。そしたらもう少し続けてもらいますね。那須さん、本当に今回の事はどうもありがとうございました。那須さんのおかげで尚典とも改めて親子関係をやり直しさせてもらえました。本当に良かったです。安心して結婚してもらえそうです」「雨降って地固まる。です。お母さんが結婚を反対してくれたお陰で、2人には親が子を想う気持ちについて考える良いきっかけになったと思います。尚典さんも真子さんもお互いの親御さんがどんな気持ちで自分たちの事を見守ってくれていたのか再認識できたと思います。僕自身もとても良い勉強になりました。」※※※※※※※※※※※※※※※※※※※それから半年後、尚典さんと真子さんは結婚式の写真を持って事務所に挨拶に来てくれました。お二人とも、とても仲睦まじく幸せそのものの様子です。「那須さん、結婚式に出て欲しかったのに残念でした…。」「せっかくお誘い頂いたのにすいませんでした。僕は、マリッジカウンセラーという仕事は、あくまでも黒子に徹するべきだと思ってるんです。人知れず結婚に向けてのサポートをして、会員様が幸せにさえなってくれたらそれでいいんです。ですから結婚後はあまり出しゃばらないようにしているんです。」「そうなんですね…。ここまで、色々とお世話になりまして、どうもありがとうございました。これ結婚式の写真です。見てください。」「いやー、皆さん幸せそうで何よりです。真子さんのご両親も尚典さんのお母さんもいい笑顔で写っていらっしゃいますねー。」「後これも見てください。新居の写真なんです」と言って、尚典さん夫婦と尚典さんのお母さんが3人で笑顔で写っている写真を見せてくれました。3人の後ろには額に入った「妻への誓い」が壁に掛けられています。「那須さんにお祝いで頂いたこの額、サイズがぴったりだったんです。那須さんよく大きさ分かりましたねー」「そりゃ、そうですよ。……。いやいや、お母さんにお会いした時に見せてもらいましたからね、多分A3サイズだったかなー。と思ってたんですよ。そうですか。ぴったりで良かったです」「あとね、チョット不思議に思ってるんですけど、この誓い多分パソコン打ちでしょう。40年前なのによくこんなのお父さんが用意できたなーと思うんですよ。40年前にパソコンなんかあったんですかねー?」「えー、そうか⁉︎……。そういや、パソコンはまだその頃出てませんよねー。……。でも、ほらお父さん印刷屋さんですし、そりゃ、これくらいなんとかなるでしょー。」「そうかなぁー。なんか40年前にしては紙も綺麗ですし。不思議やなぁーと思ってるんです。」「…。まぁ、良いじゃないですか、そんな細かい事は、とにかく、この誓いをしっかり守ってくださいよ。ねっ、真子さん。それとお二人は、この言葉を忘れないで、しっかりと覚えておいてくださいね!」と言って事務所の壁に掛けた『感謝利他心親孝行』の額を指差しました。二人はお互いに笑顔で見つめ合って頷きました。完
- 成婚エピソード
- カウンセラーの日常
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結婚相談所物語 Ⅳ
結婚相談所物語の続編(vol.4)です。1作目~3作目をお読みで無い方は、まずはそちらををお読み頂くことをお薦めさせて頂きます。鈴木さんのお母さんは現在64歳。鈴木さんが7歳お母さんが27歳の時に、お父さんが交通事故で他界されました。お父さんとその父、鈴木さんにとってはお祖父さんが印刷所を経営して切り盛りしていましたが、突然のお父さんの他界によって、当時27歳で印刷の事は何も分からないお母さんが義理の父親と一緒に一生懸命に印刷所を守ってきたそうです。その義理の父親(鈴木さんのお祖父さん)も今から10年前に他界されて、現在は経営内容を縮小して数人の社員さんと共にお母さんが社長として会社を切り盛りされています。お祖母さんは現在84歳で会社の経理を手伝いながら、元気に過ごされています。鈴木さんは3浪して大学を卒業後、大阪のデザイン会社に就職し、その後お祖父さんが他界された後に家業を手伝うために実家に戻って印刷会社に入社しましたが、とにかくお母さんと意見が全く合わず喧嘩別れのような状態で、5年前に家を出て、独立して自身のデザイン会社を立ち上げました。最近ようやく自身のデザイン会社が軌道に乗り時間的余裕もできた為、婚活に力を入れる事になったという状況です。お母さんとの話し合いは鈴木さん抜きで、私とお母さんだけで行わせて頂く事を了承頂いて、印刷会社の応接室でお会いいただける事になりました。お母さんの印象は、鈴木さんから聞いていた内容とは違って比較的穏やかな印象でした。「この度は、急な連絡でお時間をつくって頂きまして申し訳ありませんでした」「那須さんの事は尚典からも聞かせてもらっています。言いにくい事もハッキリ言ってくれるので信頼できる人だって言ってました。ホントに尚典がお世話になりましてどうもありがとうございます」私はもっと閉鎖的な対応をされるものと思い込んでいましたので意外に感じつつ、問題解決にはこちらの意見を優先せずにお相手の意見をしっかりと聞き込むという、基本姿勢に則って、とにかくお母さんの意見をしっかりとお聞きするようにしました。「ご主人様は尚典さんが小さい頃に亡くなられたそうですね。まだお母さんもお若い時ですし、大変なご苦労がお有りだったでしょうね」「そうなんです。実は当時会社の状況もあまり良い状況じゃなかったんですね。ですから私も義父と一緒に立て直すのに必死でした。尚典には母親らしい事が何もしてやれなくて、父親もいませんし、なんとかちゃんとした人間に育って欲しいと思って、心を鬼にして甘やかさずに接してたんですけど、中々思うように接してやれずになんだか捻くれた性格になってしまったように思うんです」「そうでしたか、お気持ちお察しします。私もこの仕事をしていて思うんですけど、結婚も親になる事も誰もが初めての体験ですし、戸惑いしかないですよね。しかもご主人が他界されていたら、相談できる方もいなくて、本当に苦労なさった事と思います。」「尚典は子供の頃から、あまり外に出かけたがらない子で家の中でばかり遊んでいました。ですから友達もいませんし、何の取り柄も無くて、結婚生活も上手くやっていけるのか心配なんです」「ホントに仰る通りですよね」その時、お母さんは顎を突き出して厳しい視線を私に向けました。「…いやいや、何の取り柄も無いという事はありませんよ。立派にデザイン会社も経営されているじゃないですか」お母さんは、静かに2度頷いて「あんなに捻くれた性格に育ってしまったのも、私の育て方が悪かったんだと思うんですけど…。実は、尚典は亡くなった主人にとてもよく似ているんです。亡くなった人の事を悪く言いたくは無いんですけど、主人も尚典と一緒で自分勝手で、相手がどのように感じているのかって事を全く考慮しない性格だったんです。」「そうでしたか。でも、尚典さんはとても素直な性格ですよね」「そうなんです。あの子の父親も一緒でとっても素直な人で、尚典も素直なところは父親譲りで、その点はあの子の良いところだと思うんです」「ホントに。唯一良いところですね」お母さんは、又顎を突き出して「唯一は言い過ぎじゃありませんか!」私は慌てて姿勢を正して「そ、そうですよね。唯一って事はありませんよ。優しいですし。他にもほら、えーっと、えーっと…。と、とにかくですね。お母さんとしては、尚典くんが結婚をして人並に幸せな家庭を築いてもらいたいと思っていらっしゃるんですよね!」「もちろんです!」「今日はその事を確認させて頂きたかったんです」「私だって、尚典には幸せになって欲しいと思っていますよ。でもね、あの子ってホントに我が儘で自分勝手でしょう。結納の事だって、何の相談も無しに勝手に日程まで決めてきて、後はよろしくねって言われても、私も結納なんかどうすればいいのか全く分かりませんし、つい頭にきて、勝手に日程まで決めてくるのはおかしいでしょうって怒ったら、そんなの親の役目でしょうが、親らしい事を殆どして無いんだし、それくらいしてくれてもいいだろうって言うじゃないですか!もう頭にきて、頭にきて。」「そうだったんですか。それは仰る通り頭にきますよね」「そうなんです。私も意地になってしまってるところが良くないんですけど、あとはよろしく。なんて勝手に言われても、そんなのどうしたら良いか分からないじゃないですか。それで本を見て調べてみたんですけど、結納にはまず結納金が必要でしょう。相場が100万円くらいって書いてあったので、尚典に言ったら、そんなにいらないでしょう。10万円くらいでいいんじゃ無いのって言うんです。それで、あんたバカなんじゃないの、10万円なんか少なすぎるわよ!て言って、あんたそもそも結納がどういうものなのか解ってるの?って聞いたら。よく知らないって言うんです。それで私も又頭にきて、あんたねー、結婚を舐めてるでしょう!そんななんでも人任せでいい加減にしてたら上手くいく訳が無いよって言ってやったんです」「そうだったんですか。僕が尚典さんから聞いていた話とは随分違いますねー。」「多分あの子の事だから、私が一方的に我が儘を言ってるとでも言ってたんじゃないですか?」「確かに尚典さんのいい加減なところは、ある程度矯正していかないと、真子さんにもいつか愛想を尽かされるかもしれませんよね。確認しておきたいんですが、お母さんは真子さんに対しては悪い印象は無いんですよね。」「はい、もちろんです。先日息子が持ってきた誕生日プレゼントに真子さんからの手紙が添えられてたんです。その手紙を読んで思わず泣いてしまいました。ホントに真子さんはいい子で、息子と結婚してくれたらそれはもう嬉しいですけど、他にもっといい人を探した方が良いんじゃないかしらと思ってるくらいなんです。あの子のホントの姿が分かったらきっと捨てられるんじゃないかって思って、ホントに心配で心配で…」それを聞いていた私は、正に親の心子知らずだなーと思いつつ、それからも尚典さんやお父さんの様々な過去のエピソードを約2時間に渡って色々と聞かせて頂きました。「僕もお母さんの心配は同感でして、昨日も掃除の事などこれからは心を入れ替えてやっていかないとダメですよ、ってお話させてもらってたとこなんです。でも、中々人間はそう簡単には変われませんからねぇ…。お母さんのお話を聞きながら色々と考えていまして、僕からの提案なんですけど、尚典さんが心を入れ替えて人並に結婚生活をおくれるように作戦を考えたいと思うんですが、お母さんにも協力してもらってもいいですか?」「はい、そういう事でしたらもちろん、こちらからもお願いします。なんでもしますのでなんでも言ってください」******************その日の夜、お母さんとの話し合いについて報告したいので鈴木さんには事務所に来てもらうようにお願いをしました。私はいつになく神妙な面持ちで「鈴木さん、大変申し訳無いんですが、お母さんとの話し合い。上手くいかなかったんですよ。申し訳ありません。」と言って頭を下げました。「えー。那須さんでもダメだったんですか!それじゃあ一体どうしたらいいんですか?」と言って頭を抱えています。「ただ、少しだけ光明があるんですが、ただちょっとねー。中々難しい話なのでどうかなぁ…」鈴木さんは頭を上げて「えっ、なんですか?歯切れが悪いですねぇ。どういう事なんですか?」「いや、実はですね。ちょっと長くなるんですけど、経緯を話させて頂きますね。お母さんから昨日お聞きした話なんです。鈴木さんには話していない事らしいんですけど、鈴木さんの亡くなったお父さんとお母さんの事なんです。」「えっ、お父さんがどうしたんですか?」「お母さんとお父さんは尚典さんが産まれてすぐの時に一度、離婚の危機があったそうなんです」「えっ、そうなんですか、初めて聞きました。」鈴木さんは身を乗り出して興味津々の様子です。「亡くなられたお父さんの事を悪く言うのは申し訳ないんですけど、お父さんはそもそも、性格的に自分勝手で自己中な所があったそうなんです。ギャンブルが好きで結婚後もお祖父さんに仕事を任せて、競馬やパチンコによく行ってたそうなんです。それで、家にろくにお金も入れてくれなくて、家の事はほったらかしで、尚典さんが産まれてからも、相変わらずそんな調子だったそうなんです。それで、お母さんがこのままじゃあダメだと思って、遂に離婚を決意して離婚届を置いて尚典さんと一緒に実家に帰ってしまったそうなんです。」「えー!そうだったんですか!それで離婚を…ですか。でも結局離婚はしてませんよね。」「そうなんです。その時にお父さんはお祖父さんに烈火の如く叱られて、お前が心を入れ替え無いんだったら、この会社にも要らないから出て行けって言われたそうです。尚典さんと一緒で元々素直なところがあったお父さんはすぐさま猛省をして、お母さんのところに謝りに行ったそうなんです。でも、お母さんはお祖父さんから簡単に許しちゃ直ぐに元に戻るから簡単に許すなって言われてたらしくて、中々許さないようにしてたそうなんですね。それで、お父さんがなんとかしなきゃと考えて『妻への誓い』という誓いを考えて、手紙に書いてお母さんに手渡して、もしこれからこの誓いを破る事があったらいつでも別れてくださいって言って頭を下げたそうなんです。それを見てお母さんも本当にこれを守れるんだったら大丈夫だろうという事で、お父さんを許して尚典さんと一緒に家に帰ってきたそうなんです。それからお父さんはその誓いを守って、心を入れ替えて真面目になってくれたそうなんですよ。」「えー!そんな事があったんですか。全く知りませんでした。そうですか。お父さんてそんないい加減な人だったんですか…」「そうです。それで、お母さん曰くその自分勝手でいい加減な、改心する前のお父さんと尚典さんが瓜二つなんですって」「なんか、嫌な言われようですね…」「お母さんは、別に我が儘で結婚を反対している訳じゃなくて、その改心前のいい加減でどうしようもない父親とそっくりな息子が、このまま結婚をしても、私がそうしたように、きっと真子さんも尚典と離婚する事になるんじゃないかって心配でしょうが無いそうなんです。ですから、真子さんやご家族に迷惑をかける事になるだろうからという理由で、反対というか、本当に大丈夫かなと心配されているんです。」「うーん、そうですか…。そんなに酷いんですかねー。それで、さっき那須さんは少し光明があるって言ってましたよね。それはどういう事ですか?」「ここからは、僕のアイデアなんですけど、お母さんは要するに尚典さんが心を入れ替えてさえくれれば安心して結婚を賛成してくれると思うんですね。ですから、それを示すしかないと思うんです。それが簡単な事ではないですから尚典さんができるかどうかなんですけど」「…、…」「実はお母さんに聞いてみたんですけど、お父さんが作った『妻への誓い』を尚典さんにも誓わせて、さらにこれから当分の間実家から仕事に通って、実家に帰ってからはトイレ掃除とお風呂掃除を担当して、更にお母さんに対して今までの感謝を述べつつ肩や腰を揉んで差し上げて、最終寝る前にこの誓いを改めて読んで肝に銘じる。という事を、もし尚典さんが実行できたとしたら、認めてもらえますか?ってそしたらお母さんは、それは絶対に出来ないから無理でしょう。万が一出来たとしたら、それはもう尚典のいいようにしてもらっても構いませんよ。って。」と言って鈴木さんを見つめました。鈴木さんはいつものように斜め右下を眺めつつ沈黙しています。「お父さんが作られた誓いはとても良い内容でしたよ。これが本当に実行できたら、結婚生活は幸せなものになると思います。実際お父さんはその誓いを立ててからはそれを守って、とっても幸せな結婚生活になったってお母さんも言っていました」鈴木さんはゆっくりと頭を上げて「分かりました。僕もお父さんがしたようにその誓いを守ります!でも、掃除や肩揉みは関係あるんですか?」「大いにあります。覚悟を持って誓いを立てて、さらに掃除と肩揉みで目に見える覚悟をお母さんに示すんです。それもこれも、真子さんとお母さんが仲良くなって2人の幸せな結婚生活をおくる為です。ホントにできるんですよね!約束ですよ。さらにですね。肩を揉む時にお母さんに対して今までどうもありがとうございました。って心の中で何度も唱えつつ心を込めて揉んでください。いいですね」「分かりましたよう。もうヤケクソです。何でもやりますよ。言う通りにやります!」・・・つづくここに登場する人物は「マリッジカウンセラー那須」以外は全てフィクションです。
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結婚相談所物語 Ⅲ
結婚相談所物語の続編(vol.3)です。1作目・2作目をお読みで無い方は、まずはそちらををお読み頂くことをお薦めさせて頂きます。鈴木さんと真子さんは結婚相談所での出会いでありながら、運命的に惹かれ合いトントン拍子に結婚を約束する事となりました。結婚相談所での出会いでそんな事があるのか?と思われがちですが、プロフィールで自身の偏向的な性格や趣味を赤裸々に公表する事で、それでも良い(その方が合いそう)と思ってもらえる方からアプローチされて、お互いの素性がある程度分かった状態から、お互いに背伸びをせずに居心地が良い交際をスタートできるという利点があります。ですので、かえって通常の恋愛よりも気の合う人と出逢える可能性があるのです。プロフィールを美化して装ったところで、交際が始まれば(仮に結婚までできたとしても)そのうちに素性が明らかになります。ですから当相談所での方針では、プロフィールでは出来るだけありのままの自分をPRして、交際後はお相手に対しての道徳的気遣いや振る舞いを大切にしつつ、なるべく早い段階で素の自分自身をさらけ出していくようにお勧めしています。鈴木さんもその通りに婚活をして、鈴木さんの偏向的性格と生活をよしとしてくれる真子さんと出逢い、お互いに惹かれ合う事になりました。本来なら43歳の鈴木さんと36歳の真子さんの、そこそこいい大人のお二人の年齢でしたら、親の意向は置いといて「2人の愛さえあれば、それで全て乗り越えられる!」という事になっても良いところですが、私の結婚相談所運営の意向としては、両親や家族から結婚を反対された場合は結婚を取りやめた方が良い。という方針でサポートをさせて頂いております。ですので今回も、うやむやにして進めていく事はできません。きっちりと解決をしてから結婚してもらわなければなりません。「鈴木さん、とにかくプレゼントと真子さんの手紙はお渡しする事ができたんですよね。」「はい、渡すというか。いらないの一点張りだったので、家に置いてきました。受け取ってくれているとは思うんですが…。どうでしょうねー。」「そうですか!良かったです。お母さんも引くに引けなくなっているのかもしれませんねぇ。できれば一度、お母さんに会わせてもらえませんか?私がご自宅まで会いにいきますので。これからの結婚生活の事を第一に考えますと、真子さんとお母さんの嫁姑関係が良好な関係性になる事がとても大切な事なので、その点に重点を置いた解決策を考えていきたいと思っているんです。」「えー、わざわざ会いに行ってくれるんですか!でも、母がちゃんと対応してくれないかもしれませんよ…。那須さんの言う通り真子さんと母がうまくやってくれたら嬉しいですけど、母の性格じゃ無理ですよ」「鈴木さんはね、親子ですから、お母さんと喧嘩してもなんて事は無い日常でしょうけど、真子さんはそうはいきません。鈴木さん以上にお母さんには気を使いますし、後々にそれがストレスになって夫婦間の問題に発展していくかも知れません。ですから、この状況は必ず解決してから結婚生活に進んでいかなければならないんです。それでね、真子さんのご両親には申し訳ないんですけど、ここは一旦、鈴木さんのお母さんの意見を受け入れて結納は諦めて頂けるようにお願いしてもらえませんか?言いにくいようでしたら僕も一緒にお話しさせてもらいますので」「えー、那須さんが真子さんの両親にも話してくれるんですか!真子さんの自宅は岡山ですよ。そんな遠い所まで行ってもらっていいんですか?」当社の相談所は和歌山県の南に位置する田辺市にあり、岡山までは電車を乗り継いで片道4~5時間程度かかります。「いいですよ!鈴木さんの幸せの為ですから。僕から話すほうが第三者的意見で話せますので、話がしやすいと思うんです。良好な嫁姑関係を築いて、真子さんが辛い思いしないで済む事こそが、両親が一番願っている事でしょうから、その点をお話したいんです。そういう話は鈴木さんや真子さん自身からはなかなかしにくいでしょう。善は急げです。すぐ行きましょう!」私は、問題を先送りにする事が大嫌いな性格なので、渋る鈴木さんを説得し無理やり仕事を休ませて、翌日一緒に岡山にある真子さんの実家に向かう事になりました。「那須さん、本当に真子さんが一緒じゃなくても良かったんですかねー。」「真子さんはどうしても仕事を休めなかったんでしょ。しょうがないですよ。」「いやいや、僕も今日仕事があったんですよ、それを無理やり那須さんに休ませられたんですからね。」「鈴木さん、こういう揉め事は日を追うごとに余計に拗れていくんです。とにかくスピードが大事なんです。僕も暇じゃないんですから、文句を言わないで腹を括ってください。真子さんからご実家へは連絡をしてくれたんですよね」「はい、すいません。真子さんのご両親には了承してもらっています。」真子さんのお父様は元公務員で地元の市役所を5年前に定年退職されて、不動産収入もある為、悠々自適の老後生活をされています。鈴木さんは1ヶ月前に真子さんのご両親に婚約のご挨拶を済ませており、快くご承諾を頂いていますので、既に面識があります。「真子さんのご両親はとても穏やかで優しいんですよ。ホントに絵に描いたようなほのぼの家族で羨ましいです。うちの親と比べたら大違いですわ!」「鈴木さん、その話お母さんにもしたでしょう」鈴木さんはいつものように斜め右下を見つめて「えー、言いましたよ。羨ましいって。……。まずかったですかねー。」「まずかった事が分かってきただけでも進歩です。お母さんが厳しいのも分かりますけど、鈴木さんのKYの方が問題かもしれませんねぇ。お母さんの物言いがキツくなるのも分かりますわ。もういい年なんですから親にも少しは気を遣わないとダメですよ。」「はい、これから気をつけたいと思います」「鈴木さんは一応社長ですし、人付き合いもへたなので、周りの誰からもそういう事を注意された事がないんでしょう。お父さんもいらっしゃらないし、しょうがないですけど。いよいよ結婚するんですから、これからはもう親に甘えたらダメですよ。それにその空気を読めない性格を改めていかないとこれからもっと苦労しますよ」「はいはい、分かりましたー。那須さんてホントに言いたい事言いますよね。」そうこうしているうちに岡山駅に到着し、午後2時頃に真子さんの実家に到着しました。聞いていた通り穏やかなご両親で、笑顔で我々を出迎えてくれました。「この度は、わざわざ遠いところまでおいで頂きましてどうもありがとうございます。まぁ、あがってゆっくりしていってください。」「こちらこそ、突然にお邪魔して申し訳ございません。びっくりされたでしょう。」「いえいえ、私たちも今回の事では尚典君にもお母さんにもご迷惑をかけてしまって、申し訳ない事になってしまったなぁ。と思っていましたので、こうしてお話にきてもらえて良かったです」「どうもありがとうございます。それでは早速本題に入らせて頂きますね。事情は真子さんからもお聞き頂いているかもしれませんが、改めて経緯をご説明させて頂きます。」そう言って私はここまでの経緯をご説明して「単問直入に申し上げさせて頂きますが、申し訳ありませんが、結納の儀式は諦めて頂けませんでしょうか?一人娘の大切な真子さんの、一生に一度の大切な門出ですから、きちんとした慣わしに則って行いたいというお気持ちはよく分かりますので、こんな事をお願いする事は大辺心苦しいのですが…」鈴木さんも神妙な面持ちで一緒に頭を下げつつ「本当にうちの母が我が儘な事を言って申し訳ありません。」真子さんのお父さんは、腕組みをしていた手を静かに膝の上に下ろして「尚典君、それに那須さん、こちらこそ勝手な意見を押し通そうとして申し訳ない。」と言って、ゆっくりと頭を下げました。私と鈴木さんは顔を見合わせた後、改めてお父さんに視線を向けました。「結婚相談所での結婚で、お互いの親同士がしっかりとした意思の疎通もできない状況なのに、こちらの意向を押し付けるような事をして尚典君とお母さんには嫌な思いをさせてしまった。と。妻とも話していたんです。お母さんの希望通り、結納は無しで結構です。それと今後の事も、我々はもう口出しをせずに、娘と尚典君にお任せしようと思っています。」私と鈴木さんは、もう一度改めて深く頭を下げて「ご了承頂けまして、本当にありがとうございます。その代わり、真子さんが結婚後も鈴木さんのお母さんと良好な関係性を築けて、幸せになってもらえるように、できる限りの事をさせて頂きます」お父さんは姿勢を正して鈴木さんに厳しい目を向けました。「尚典君、娘の事、よろしく頼みますよ。」「は、はいっ。真子さんの事、大切にさせて頂きます。よろしくお願い致します。」私たちは、見送ってくれている真子さんのご両親に改めて深くお辞儀をして、真子さんの実家を後にしました。「真子さんのお父さん、最後にすごい厳しい顔をしてましたね。」「そうですね。娘さんを想う親御さんの気持ちというのは、本当に切実なんです。鈴木さんも覚悟してくださいね。もしも真子さんに辛い思いをさせるような事があったら、あのお父さんは絶対に許してくれませんよ。結婚は2人だけの問題じゃなくて、今まで大切に育ててこられた相手の両親の事も常に考えて、真子さんを悲しい気持ちにさせる事があったら、それ以上に相手の両親は更にもっともっと悲しい状況になるという事を覚えておいてください。親は自分の事以上に子供のことを考えてくれているんです。子供の幸せの為だったらどんな事でもできるという覚悟が常にあるんです。」鈴木さんはいつになく、うなづきながら私の話を神妙に聞いてくれています。「男性はね、結婚してしばらくしたら、妻に対して遠慮がなくなって横柄になったり、偉くもないのに偉そうにしたり、トイレ掃除もしないくせに立って小便をしたりするんですよ。男性は仕事をしているから偉い。ちょっとくらい我が儘を言ってもいい大丈夫。なんて思ってたら大きな勘違いですからね。旦那がどれだけ稼いでいようがそんな事は関係無いんです。鈴木さんも肝に銘じておいてくださいね。夫婦関係はヒフティヒフティですからね。常に真子さんが笑顔で過ごせるように心配りをしてあげるんですよ!」「分かりました。今まで立ってオシッコしてましたが、これからは座ってするようにします」「鈴木さん、今まで掃除はどうしてたんですか?」「母が月に1回程度来てくれて、してくれてます…」「…、…、嘘でしょー!信じられない。なんちゅうマザコンなんですか?。よくそれで、お母さんの悪口言ってましたね!考えられません。明日から自分でしなさい。それで、掃除の練習をして結婚後も自分で一生掃除してください。今まで40年以上してこなかった罰です。それくらい心を入れ替えなかったら貴方は確実に真子さんに捨てられます。」鈴木さんはいつものように斜め下を眺めつつ「確実に捨てられるって、そこまで言わなくても…」「いや、このまま、一人息子のあほボンのまま結婚したら、いつか確実に捨てられます。いいですか、鈴木さん。空気が読めない。人付き合いが下手。掃除もできない。髪の毛も少ない。炊事洗濯もままならない。ほとんど取り柄が無いじゃないですか!そんな男と結婚してくれる真子さんの身にもなってみてください。メリットがほとんど無いじゃないですか!もうね。気儘なおっさん暮らしは今日で卒業ですよ。明日から生まれ変わったつもりで、掃除と炊事洗濯を猛特訓してください。真子さんみたいな良い子と巡り合える事なんかホントに奇跡的なんですからね。捨てられたくなかったらせめて掃除くらいキッチリとできる人間になってください。いいですね。」鈴木さんは口を尖らせながら「分かりました…。それじゃあ帰ったら早速掃除します…」と渋々ながらも受け入れてくれた様子です。「鈴木さん、貴方は欠点だらけですけど、それを補えるだけの素直さと優しさを持っています。真子さんもその点を見てくれているんだと思います。でもね、真子さんはお母さんじゃないんですから、甘えちゃあいけませんよ。自分でできる事は全て自分でやってください。そして、絶対に真子さんを悲しませないと毎朝自分自身に誓ってください。」「分かりました」
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