副業で個人事業主になるとは?会社員との違いと基礎知識
副業を始めた人が、全員そのまま「個人事業主」になるわけではありません。税務署に開業届を出して事業として営むのか、それとも副収入のまま申告するのかによって、使える制度も税金の計算方法も変わってきます。
まずは、その前提となる考え方を整理しておきましょう。
「副業の収入」と個人事業主の定義
個人事業主とは、法人を設立せずに、継続・反復して事業を営んでいる個人のことです。税務上の手続きとしては、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」(いわゆる開業届)を提出することで、個人事業主として事業を開始したことを申告します。
つまり、副業で収入を得ているというだけでは、必ずしも個人事業主にはあたりません。会社員がフリマアプリで不用品を売った、単発でアンケートに答えて謝礼を受け取った、といったケースは、事業とは呼べない範囲の副収入です。
両者の決定的な違いは、税務上の所得区分にあります。開業届を提出したうえで事業として営み、その実態が事業所得と認められれば、「事業所得」として申告でき、青色申告をはじめとする各種の優遇制度を利用できるようになります。一方、事業と認められない副収入は「雑所得」として扱われ、これらの制度は使えません。
なお、開業届の提出期限は改正されており、2026年1月1日以後に事業を開始した場合は、事業を開始した日が属する年分の確定申告期限までに提出することとされています。(例:5月に開業した場合は翌年3月15日まで)以前は「事業開始から1ヵ月以内」とされていましたが、現在は期限に余裕がある形になりました。
参照:国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
参照:国税庁「No.2090 新たに事業を始めたときの届出など」
関連記事:開業届の書き方と提出方法!個人事業主のための青色申告等の基礎知識
雑所得と事業所得の違い
同じ金額を稼いでいても、それが雑所得なのか事業所得なのかによって、手元に残る金額は変わります。両者の違いを整理すると次のとおりです。
| 比較項目 |
雑所得(業務に係る雑所得) |
事業所得 |
| 開業届 |
原則不要 |
必要(事業開始時に提出) |
| 青色申告 |
選択できない |
選択できる |
| 青色申告特別控除 |
なし |
最大65万円 |
| 給与所得との損益通算 |
できない |
できる |
| 赤字の繰越 |
できない |
青色申告なら翌年以降3年間繰越可能 |
| 帳簿付け |
原則不要(前々年の収入金額が300万円を超える場合は書類の保存義務あり) |
必要(65万円・55万円控除には複式簿記が必須) |
では、どこで線引きされるのでしょうか。国税庁は令和4年10月に所得税基本通達35-2を改正し、事業所得と認められるかどうかは「その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度でおこなっているかどうか」で判定するという考え方を明らかにしました。
あわせて、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合には、業務に係る雑所得に該当するとされています(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合を除きます)。
帳簿の作成・保存は、事業として継続的に取り組んでいる実態を示すうえでも重要です。ただし、帳簿を保存していることだけで事業所得と認められるわけではありません。金額の大小だけで自動的に決まるものではない点を押さえておきましょう。
参照:国税庁「法第35条《雑所得》関係」
会社員が副業で個人事業主になっても問題ない?
会社員が副業をおこなうこと自体を禁止する法律はありません。厚生労働省が公表しているモデル就業規則でも、労働者は勤務時間外において他の会社等の業務に従事することができる、という規定が示されています。
また、裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由であるとされています。企業がそれを制限できるのは、労務提供上の支障がある場合、企業秘密が漏洩する場合、企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、競業により企業の利益を害する場合などに限られると考えられています。
ただし、実際には勤務先の就業規則で副業が許可制・届出制になっていることが少なくありません。手続きを進める前に、次の点を確認しておきましょう。
・就業規則に副業に関する規定があるか(禁止・許可制・届出制のいずれか)
・許可制・届出制の場合、申請のタイミングと必要書類
・競業避止義務の対象となる業種・業務にあたらないか
・本業の勤務時間や業務に支障が出ない範囲か
なお、公務員については、国家公務員法・地方公務員法により営利企業への従事等が制限されています。副業を検討する場合は、所属先の規程を必ず確認してください。
参照:厚生労働省「副業・兼業と労働条件」
参照:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
副業で個人事業主になる4つのメリット

開業届を出して事業所得として申告できるようになると、会社員の副収入のままでは使えない制度が一気に使えるようになります。ここでは、代表的な4つのメリットを具体的に見ていきます。
青色申告で最大65万円の特別控除が受けられる
もっとも大きなメリットが、青色申告特別控除です。所得金額から最大65万円を差し引けるため、その分だけ課税対象が小さくなり、所得税と住民税の両方が軽くなります。
控除額は65万円・55万円・10万円の3段階で、それぞれ要件が異なります。
まず、55万円の控除を受けるための要件は次のとおりです。
・不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいること
・これらの所得に係る取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること
・その記帳に基づいて作成した貸借対照表・損益計算書などを確定申告書に添付し、確定申告期限(翌年3月15日)までに提出すること
そのうえで、次のいずれかを満たすと控除額が65万円になります。
・その年分の事業に係る仕訳帳および総勘定元帳について、優良な電子帳簿の要件(改ざん防止機能や検索機能などを備えた一定の基準)を満たした電子帳簿保存をおこなっていること(届出書の提出が必要)
・確定申告書、貸借対照表、損益計算書等を、提出期限までにe-Taxを使用して提出すること
上記の要件を満たさない青色申告者は、10万円の控除となります。実務上は、会計ソフトで複式簿記の帳簿を作成し、e-Taxで期限内に申告するのが65万円控除への最短ルートです。
なお、控除額は所得の金額が上限になります。事業所得が30万円しかない場合、控除できるのは30万円までで、マイナス分が他の所得から引かれるわけではない点にご注意ください。
参照:国税庁「No.2072 青色申告特別控除」
家賃や通信費、パソコン代などを「経費」として計上できる
自宅の一室を仕事場にしている場合、その家賃や水道光熱費、スマートフォン・インターネットの利用料などを、事業で使った割合に応じて経費に計上できます。
ここで押さえておきたいのが「家事関連費」という考え方です。一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわる費用について、必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合の、その区分できる金額に限られます。
つまり、家賃を全額経費にすることはできず、合理的な基準で按分する必要があります。実務でよく使われる按分基準は次のようなものです。
・家賃・水道光熱費:仕事に使っている部屋の面積が住居全体に占める割合
・通信費:1週間あたりの業務使用時間が全体に占める割合
・パソコン・備品:業務での使用割合(10万円以上のものは減価償却の対象)
大切なのは、その割合を決めた根拠を説明できるようにしておくことです。間取り図に業務スペースを記した資料や、稼働時間の記録などを残しておくと、後から確認を求められた際にも説明しやすくなります。
参照:国税庁「No.2210 必要経費の知識」
事業の赤字を会社員の給与所得と損益通算できる
事業を始めた年は、機材の購入費や研修費などの初期投資がかさみ、赤字になることも珍しくありません。事業所得であれば、この赤字を本業の給与所得と相殺できます。これが損益通算です。
損益通算の対象となるのは、不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の4つに限られます。雑所得は対象外であり、赤字が出ても他の所得から差し引くことはできません。
会社員の給与からは毎月の給与天引きで所得税が源泉徴収されています。副業の事業所得が赤字であれば、確定申告によって所得全体が圧縮され、納めすぎていた所得税の還付を受けられる場合があります。
ただし、赤字が出ること自体を目的とするような申告は認められません。
参照:国税庁「No.2250 損益通算」
屋号で口座開設や契約ができ、社会的信用が高まる
開業届には屋号を記載する欄があり、ここに事業の名称を書いておくと、屋号を使った活動がしやすくなります。
具体的には、金融機関で屋号名義(または「屋号+個人名」名義)の事業用口座を開設できたり、取引先との契約書や請求書に屋号を記載できたりします。個人名だけでやり取りするより事業としての体裁が整い、取引先から見た信頼感につながります。
また、事業用の口座を分けておくと、プライベートのお金と事業のお金が混ざらず、帳簿付けの負担が大きく減ります。信用面だけでなく、実務面でもメリットがある選択です。
参照:国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
副業で個人事業主になる注意点・デメリット
メリットが大きい一方で、開業届を出したことで生じる制約もあります。特に失業手当と扶養に関する項目は、知らずに手続きを進めると後から取り返しがつかないことがあるため、事前に確認しておきましょう。
確定申告や帳簿付け(会計処理)の手間が発生する
青色申告特別控除の65万円・55万円を受けるには、複式簿記による記帳が必要です。日々の取引を借方・貸方に分けて記録し、その記帳に基づいて貸借対照表と損益計算書を作成しなければなりません。
さらに、領収書やレシート、請求書、通帳の記録などの保存も必要です。これらを1年分ためてから確定申告の直前に片付けようとすると、かなりの負担になります。
実際にかかる手間を減らすには、次のような準備が有効です。
・会計ソフトを導入し、銀行口座やクレジットカードと連携させて取引を自動取込する
・月に1回など、記帳する日をあらかじめ決めておく
・領収書はその場でスマートフォンで撮影し、都度アップロードする
なお、10万円の青色申告特別控除であれば簡易な記帳でも認められます。副業の規模が小さいうちは10万円控除から始め、収入の拡大に合わせて複式簿記へ移行するという進め方も現実的です。
参照:国税庁「No.2072 青色申告特別控除」
会社員を退職した際に「失業手当」がもらえないリスクがある
雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)を受け取るには、「失業の状態」にあることが要件です。これは、ハローワークに来所して求職の申込みをおこない、就職しようとする積極的な意思といつでも就職できる能力があるにもかかわらず、職業に就くことができない状態を指します。
すでに開業届を提出して事業を営んでいる場合、この失業の状態にあたらないと判断される可能性があります。本業を退職したあとの生活費として失業手当をあてにしていたのに受給できない、という事態は避けたいところです。
ただし、救済にあたる制度も用意されています。2022年7月1日から、離職後に事業を開始等した方については、事業をおこなっている期間等を最大3年間受給期間に算入しない特例が新設されました。この特例を申請しておけば、仮に事業がうまくいかずに廃業した場合でも、あらためて基本手当を受給できる可能性が残ります。
申請は、事業を開始等した日の翌日から2ヵ月以内に、住居所を管轄するハローワークへ提出する必要があります。また、受給資格がある状態で事業を開始した場合、要件を満たせば再就職手当の対象となることもあります。
判断が分かれやすい領域のため、退職と開業のタイミングが近い方は、事前に管轄のハローワークへ相談することをおすすめします。
参照:ハローワークインターネットサービス「基本手当について」
参照:厚生労働省「離職後に事業を開始等した場合の雇用保険受給期間の特例について」
会社の社会保険の扶養から外れる可能性がある
配偶者や親の健康保険の被扶養者になっている方が副業を本格化させる場合は、扶養の基準に注意が必要です。
健康保険の被扶養者と認定されるには、原則として年間収入が130万円未満(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者は180万円未満)であり、かつ同一世帯の場合は被保険者の年間収入の2分の1未満であることが要件とされています。なお、19歳以上23歳未満の方(被保険者の配偶者を除く)は、年間収入要件が150万円未満となる特例があります。ここでいう年間収入は、過去1年間の実績ではなく「今後1年間に見込まれる収入」を指すのが一般的です。
また見落とされやすいのが、この年間収入の考え方が所得税の計算とは異なる点です。多くの健康保険組合では、自営業者の場合に総収入から差し引けるのは、事業の継続に必要最低限の「直接的必要経費」に限られるとされています。所得税では経費として認められる支出でも、扶養認定上は差し引けないことがあるということです。
そのため、確定申告書上の所得が130万円を下回っていても、扶養から外れると判断されるケースがあります。判断基準は健康保険組合ごとに異なるため、副業の売上が伸びてきた段階で、加入している健康保険組合に直接確認しておくと安心です。
参照:日本年金機構「労働契約内容による年間収入での被扶養者の認定の取り扱いについて」
会社に副業がバレる可能性がある
勤務先に副業が知られるきっかけとしてもっとも多いのが、住民税です。住民税は前年の所得をもとに計算され、会社員の場合は勤務先が給与から天引きして納付します(特別徴収)。副業分の所得が加わって住民税額が同僚より突出していると、経理担当者が気付く可能性があります。
これを避ける方法として、確定申告書の第二表にある「住民税・事業税に関する事項」で、給与・公的年金等以外の所得に係る住民税の徴収方法を「自分で納付」(普通徴収)に選択する方法があります。副業分の住民税の納付書が自宅に届き、自分で納めることになるため、本業の給与から天引きされる住民税には反映されません。
ただし、次の点には注意が必要です。
・選択できるのは給与・公的年金等以外の所得に係る住民税に限られます。副業がアルバイトなど給与所得の場合は対象外で、全額が特別徴収になります
・自治体によって取り扱いが異なります。「自分で納付」を選択しても普通徴収にならない場合があるため、お住まいの市区町村へ確認してください
・記載を忘れると原則として特別徴収になります
・副業で赤字が出て本業の給与と損益通算した場合、本業分の住民税額が安くなるため、普通徴収を選んでいても経理担当者に気付かれるケースがあります
参照:国税庁「確定申告書等作成コーナー 住民税の徴収方法の選択」
関連記事:副業が会社にバレる4つの理由と防ぐための対策
副業で個人事業主になるべきタイミングと判断基準

開業届は提出期限に余裕がありますが、青色申告を利用したい場合は、青色申告承認申請書の提出期限に注意が必要です。ここでは、開業を検討すべき3つのタイミングを整理します。
継続的な収入があり「事業性」が認められるとき
前述のとおり、事業所得と認められるかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度でおこなっているかどうかで判定されます。一時的なお小遣い稼ぎの段階では、開業届を出しても事業所得として扱われない可能性があります。
判断の目安となるのは、次のような状態です。
・相当程度の期間、継続して収入が発生している
・一定の時間を割いて、反復・継続して取り組んでいる
・収入を得るために必要な設備や体制を整えている
・帳簿を作成し、取引の記録と書類を保存している
特に4つ目の帳簿の保存は重要です。帳簿書類の保存がない場合、原則として業務に係る雑所得と判断されるためです。逆にいえば、収入が安定してきた段階で記帳を開始し、そのタイミングで開業届を出すという流れが自然です。
参照:国税庁「法第35条《雑所得》関係」(所得税基本通達)
経費が多くかかっており、青色申告で節税したいとき
副業のために機材を購入した、材料を仕入れた、外注費を支払ったなど、経費の額が大きくなってきたら、事業所得への切り替えを検討するタイミングです。
雑所得のままでは青色申告特別控除を使えず、赤字が出ても給与所得と相殺できません。一方、事業所得として青色申告をすれば、経費を差し引いたうえでさらに最大65万円を控除できます。
例えば副業の売上が150万円、経費が50万円だった場合、雑所得なら課税対象は100万円です。事業所得で65万円の青色申告特別控除を適用できれば、課税対象は35万円まで圧縮されます。所得税率と住民税率を合わせて考えると、手残りの差は決して小さくありません。
なお、控除を受けるには青色申告承認申請書の提出期限を守る必要があります。「今年から適用したい」という場合は、期限を過ぎていないか必ず確認してください。
参照:国税庁「No.2072 青色申告特別控除」
将来的に脱サラ・独立開業を見据えているとき
節税だけでなく、独立の準備期間として個人事業主になるという考え方もあります。
本業の収入があるうちに事業を立ち上げておけば、生活費の心配をせずに顧客獲得や単価設定の試行錯誤ができます。会計処理や確定申告の実務にも慣れておけるため、本格的に独立したときの負担が軽くなります。
また、屋号での取引実績や確定申告の記録は、独立後に融資を申し込む際や、法人化を検討する際の材料にもなります。事業としての実績を数字で示せる状態を、在職中につくっておけるのは大きな強みです。
「いつか独立したい」と考えているのであれば、副業段階から個人事業主として動き出すことで、独立までの助走期間を確保できます。
副業で個人事業主になるための手続きの流れ
実際の手続きは、書類2枚の提出と、お金まわりの環境整備が中心です。まず、税務署へ提出する主な書類と期限を整理しておきましょう。
| 書類名 |
提出先 |
提出期限 |
備考 |
| 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届) |
納税地を所轄する税務署 |
事業を開始した日が属する年分の確定申告期限まで |
e-Tax・郵送・窓口いずれも可。屋号の記載欄あり |
| 所得税の青色申告承認申請書 |
納税地を所轄する税務署 |
原則としてその年の3月15日まで。1月16日以後に開業した場合は、開業日から2ヵ月以内 |
青色申告特別控除を受けるために必須 |
期限が異なるため、開業届だけ先に出して青色申告承認申請書を忘れると、その年は青色申告ができません。実務上は2枚を同時に提出するのが安全です。
税務署へ開業届を提出する
開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。提出先は、納税地(原則として自宅の住所地)を所轄する税務署になります。
提出方法は、パソコンからe-Taxソフトで作成して電子提出する方法の他、書面を作成して税務署へ持参または郵送する方法があります。e-Taxで提出する場合、本人確認書類の提示または写しの添付は不要です。
書類には、氏名・住所・マイナンバー・職業・屋号・事業の概要・開業日などを記載します。屋号は必須ではありませんが、事業用口座の開設を考えているなら記入しておくとよいでしょう。
提出期限は、事業を開始した日が属する年分の確定申告期限までです。提出は所得税法で義務づけられていますが、期限を過ぎたことによる罰則は設けられていません。ただし、青色申告承認申請書の期限は別に定められているため、開業後は早めに手続きを済ませておくことをおすすめします。
参照:国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
青色申告承認申請書をあわせて提出する
青色申告特別控除をはじめとする優遇制度を受けるには、「所得税の青色申告承認申請書」の提出が必要です。この書類を出していなければ、どれだけ丁寧に帳簿を付けていても白色申告となり、65万円控除は適用されません。
提出期限は、青色申告をしようとする年の3月15日までです。ただし、その年の1月16日以後にあらたに事業を開始した場合は、事業開始等の日から2ヵ月以内となります。
例えば5月1日に副業を開業した場合、6月30日までに提出すれば、その年分から青色申告を適用できます。7月に入ってから提出すると、その年は白色申告となり、青色申告の適用は翌年からになります。
このタイミングを逃すと1年分の控除を失うことになるため、開業届と同時に提出しておくのが確実です。
参照:国税庁「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」
副業専用の銀行口座・クレジットカードを作成する
書類の提出が済んだら、お金の流れを分ける準備に移ります。事業用の銀行口座とクレジットカードを用意し、事業に関する入出金はすべてそこに集約しましょう。
プライベートの口座と混在していると、通帳の1行ずつについて「これは事業か、生活費か」を判断する作業が発生します。取引が増えるほどこの負担は膨らみ、経費の計上漏れや誤りの原因にもなります。
口座を分けておくメリットは次のとおりです。
・通帳の取引がそのまま帳簿の元データになり、記帳が大幅に楽になる
・事業の収支が一目でわかり、採算の判断がしやすくなる
・税務調査などで説明を求められた際に、根拠を示しやすい
開業届に屋号を記載していれば、屋号名義での口座開設も可能です。ネット銀行であればオンラインで手続きが完結し、会計ソフトとの連携もスムーズです。
会計ソフトを導入して日々の帳簿付けを始める
最後に、会計ソフトを導入して記帳を始めます。複式簿記と聞くと難しく感じますが、クラウド会計ソフトを使えば、簿記の知識が少なくても実務は進められます。
銀行口座やクレジットカードを連携させると取引データが自動で取り込まれ、勘定科目の候補も自動で提案されます。利用者は内容を確認して確定するだけで、複式簿記の仕訳が作られていく仕組みです。
なお、65万円の青色申告特別控除を受けるには、e-Taxによる電子申告か、優良な電子帳簿の保存(一定の機能基準を満たした電子帳簿での保存)のいずれかが必要です。多くのクラウド会計ソフトはe-Tax送信に対応しているため、ソフトを選ぶ際は対応状況を確認しておきましょう。
参照:国税庁「電子帳簿保存法関係」
副業での個人事業主化・独立に関するよくある質問
最後に、副業で個人事業主を目指す方から特に多く寄せられる3つの疑問について回答します。
副業の収入がいくらを超えたら個人事業主になるべき?
まず、確定申告が必要になるラインを押さえておきましょう。給与を1か所から受けていて、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える人は、確定申告が必要とされています。
ここでいう20万円は、収入ではなく所得(収入から必要経費を差し引いた金額)で判定します。売上が30万円でも経費が15万円かかっていれば、所得は15万円となり、この基準には達しません。
また、この20万円の基準は所得税に関するものであり、住民税には同様の規定がありません。所得税の確定申告が不要な場合でも、お住まいの市区町村への住民税の申告は必要になる点にご注意ください。
一方、個人事業主になるべきかどうかは、金額よりも事業としての実態で判断するのが適切です。継続して収入があり、帳簿を付けて事業として取り組んでいるのであれば、金額の多寡にかかわらず開業届を検討する価値があります。判断に迷う場合は、経費が増えてきたタイミングを一つの目安にするとよいでしょう。
参照:国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」
会社にバレずに副業で個人事業主になれますか?
確定申告書の第二表にある「住民税・事業税に関する事項」で、給与・公的年金等以外の所得に係る住民税の徴収方法を「自分で納付」(普通徴収)に選択すれば、副業分の住民税は勤務先を経由せず、自宅に届く納付書で納めることになります。
ただし、この方法にも限界があります。選択できるのは給与・公的年金等以外の所得に係る住民税に限られるため、副業がアルバイトなど給与所得にあたる場合は対象外です。また、自治体によって取り扱いが異なり、選択しても普通徴収にならないことがあります。
住民税以外にも、社会保険の手続きや取引先を通じた情報など、勤務先に知られる経路は複数存在します。「絶対にバレない方法」は存在しないと考えたほうが現実的です。
なお、就業規則で禁止されている場合に無断で副業を行うと、懲戒処分の対象となる可能性があります。過去の裁判例でも、無許可の兼業について懲戒解雇が有効と判断されたケースがあります。まずは就業規則を確認し、届出制であれば正規の手続きを踏んだうえで進めてください。
参照:国税庁「確定申告書等作成コーナー 住民税の徴収方法の選択」
関連記事:副業時の確定申告、しないとどうなる?20万円ルールとは?
赤字が出てもずっと個人事業主として認められますか?
事業所得の赤字を給与所得と損益通算できるのは大きなメリットですが、赤字を出すこと自体を目的とした申告は認められません。
事業所得と認められるかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度でおこなっているかどうかで判定されます。国税庁は、収入金額が僅少と認められる場合や、その所得を得た活動に営利性が認められない場合には、事業と認められるかどうかを個別に判断するとしています。
例えば、収入がほとんどないまま数年にわたって赤字を計上し続けているようなケースでは、営利性が認められないと判断され、事業所得ではなく雑所得として扱われる可能性があります。その場合、損益通算も青色申告特別控除も適用されません。
大切なのは、黒字化を目指して実際に活動している実態があることです。売上を伸ばすための営業活動をおこない、その記録を残し、帳簿と書類を適切に保存しておく。この積み重ねが、事業としての実態を裏付けます。
参照:国税庁「法第35条《雑所得》関係」(所得税基本通達)
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副業で個人事業主になることには、青色申告による最大65万円の控除、家賃や通信費の経費計上、赤字が出た際の損益通算、屋号による信用の獲得といった、はっきりとしたメリットがあります。
一方で、帳簿付けの手間や、失業手当・扶養への影響など、事前に把握しておくべき注意点もあります。開業届と青色申告承認申請書の提出期限が異なる点も、見落としやすいポイントです。
そして何より重要なのが、「どの仕事を副業として選ぶか」です。継続的な収入があり、事業としての実態を示せることが、事業所得として認められる前提になります。単発の仕事を繰り返すだけでは、事業性を主張しづらいのが実情です。
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※本記事は2026年8月時点の法令・公表情報に基づいて作成しています。税制や社会保険制度は改正されることがあるため、実際の手続きにあたっては最新の情報をご確認いただくか、税務署・税理士等の専門家へご相談ください。